私たちの身近にある「海」の誕生から現在について、多様な生物や人と海の関わりを紹介し、さらには海との未来を考えていく特別展「海 -生命のみなもと-」が2023年7月15日より国立科学博物館で開催。2013年、2017年に開催された「深海」に続く、科博とJAMSTECによる特別展の第3弾で、今回は海全体についてテーマごとに展示されており、さまざまな視点から海を知ることができます。プレス向け内覧会に参加してきましたので、内容盛りだくさんの展示の中から厳選した10の見どころを紹介します。
【見どころ①】
地球になぜ海が存在する? 小惑星リュウグウの試料を展示
第1章は「海と生命のはじまり」となっており、今回の特別展は「地球になぜ海が存在するのか」からスタート。その謎を解明する手がかりとして注目されているのが、日本の探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの試料です。地球外で採取された試料から液体の水が発見されたのは世界初で、「地球の水は宇宙から隕石によってもたらされた」という仮説を補強する貴重な試料といえます。会場ではJAXAから貸し出された、展示できる中では一番大きなものを見ることができます。
【見どころ②】
生命の誕生は深海から? 世界唯一の「白い」炭酸塩チムニー
深海にある噴出孔から出る熱水は、酸性で黒色の硫化物を沈殿させる(黒いチムニー)というのが従来の知見でしたが、それを覆したのが2000年に大西洋の海底にあるロストシティ熱水域で発見された白いチムニー。アルカリ性の熱水の噴出により白色の炭酸塩鉱物が巨大なチムニーを作っており、他の熱水噴出孔とはまったく異なる環境のため、地球の生命誕生を解き明かすことにつながる発見として注目されています。会場では、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)が所蔵する実物を見ることができます。
【見どころ③】
海の生物の進化を知る。インドネシア・シーラカンスの標本などを展示
私たちの祖先が水中でどのように進化してきたのか、化石と現生生物の比較展示で知ることができます。中でも目をひくのが、生きた化石として知られる「シーラカンス」の標本。シーラカンスは硬骨魚の中でも肉鰭類というグループに属しており、過去と現在をつなぐ生物として貴重な存在です。会場では「アクアマリンふくしま」で展示されているインドネシア・シーラカンスの標本を見ることができます。館外に出るのは初めてということで、とても貴重な機会です。
【見どころ④】
ホエールポンプとは? 高さ約4.7mのナガスクジラの上半身標本と骨格
第2章「海と生き物のつながり」では、世界の海の特徴や、日本をとりまく海の環境や地形、そこに暮らす生き物の多様さとそのつながりについて知ることができます。多数の剥製や標本が並ぶ中でも目をひくのは、この展示のために作られた高さ約4.7mのナガスクジラの上半身標本と骨格。クジラなど海の大型生物が潜ったり浮かんだりする垂直運動「ホエールポンプ」によってもたらされる海への恩恵など、最新の海の概念を知ることができます。
【見どころ⑤】
話題のスネイルフィッシュなど深海生物の標本がズラリ
貴重な深海生物の標本もズラリ。シンカイクサウオやキャラウシナマコ、ダイダラボッチなどユニークな深海生物の標本が並ぶ中、注目は世界で最も深い水深で確認された魚として知られる「スネイルフィッシュ」。2023年4月4日に伊豆・小笠原海溝の海底付近、水深8336メートルで撮影され、ギネス世界記録にも認定されたことで話題となりました。会場では、東京海洋大学が所蔵する、マリアナスネイルフィッシュのパラタイプ標本を見ることができます。
【見どころ⑥】
沖縄で発見された世界最古の貝製釣針
第3章は「海からのめぐみ」がテーマ。旧石器時代から現在の海洋開発の最前線まで、人類がいかにして海からめぐみを得てきたのかを知ることができます。人類はどのようにして日本列島へ渡来したのかを探るために実施された「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」で実際に台湾から与那国島へ渡ることに成功した丸木舟や、2012年に沖縄県南城市のサキタリ洞遺跡で出土した約2万3000年前という世界最古の貝製釣針(沖縄県立博物館・美術館所蔵)をはじめとする遺物など、貴重な展示物に目を奪われます。
【見どころ⑦】
4500m級無人探査機「ハイパードルフィン」の実機を展示
海洋調査の最前線についての紹介と共に展示されているのが、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する無人探査機「ハイパードルフィン」の実物。深度4,500mまでの潜航が可能で、これまでに2,200回以上の調査潜航を行ない、数多くの成果を上げてきています。2本のマニピュレーターなどが間近で見られ、機体についた傷からはこれまでの奮闘を窺い知ることができます。
【見どころ⑧】
深海の生態系の頂点、ヨコヅナイワシのパラタイプ標本
第4章「海との共存、そして未来へ」は、海のめぐみとともに生きてきた人類が、今後どのように海と関わっていけばいいのかを考えるパートとなっています。深海底の海洋保護区の生態系の健全性を表す指標として注目されているのが、2016年に駿河湾で採取され、新種記載された「ヨコヅナイワシ」。駿河湾最深部の生態系の頂点に立っており、生物多様性や機能の維持に重要な役割を果たしているといわれています。会場では、海洋研究開発機構が所蔵するパラタイプ標本を見ることができます。
【見どころ⑨】
海洋酸性化や海のごみ問題についての展示も
絶滅の危機に瀕している海洋生物や、海洋プラスチック汚染、海洋酸性化、貧酸素化、海洋汚染など人間活動に伴う環境変化についても紹介。日本近海の深海底で採取されたプラスチックごみやクジラの胃の中から見つかったごみの展示もあり、私たちが未来に向けてどのようにしていけばいいのか、とても考えさせられます。第2会場では海洋生分解性材料の紹介や、海のカーボンニュートラルについての説明などもあり、ぜひ見ておきたいところです。
【見どころ⑩】
書いたメッセージがプロジェクターで投影される
今回の特別展「海 -生命のみなもと-」を通じて考えたこと、誰かに伝えたいこと、自分に何ができるのか?などをメッセージやイラストで書いてメッセージBOXに投函すると、後日プロジェクターに投影・公開される「海へのメッセージ」。自分の想いを書いたり、人が書いたものを参考にして、今後の海との付き合い方に活かしてはいかがでしょうか。
特設ショップには欲しくなるグッズがいっぱい!
会場の最後にある特設ショップでは、大人気の深海生物「スケーリーフット」や「センジュナマコ」のぬいぐるみなどのオリジナルグッズのほか、同展の公式キャラクター(しーちゃん、うずっぴー、どろやん)を使ったグッズや、大人気イラストレーター・Chocomooのコラボグッズ、猿田彦珈琲コラボ「超深海ブレンド」など、欲しくなるグッズがいっぱい。特にサンリオの大人気キャラクター「ハンギョドン」とのコラボグッズはかわいいものが多く、ぜひとも手に入れたいところです。
図録の表紙写真は自然写真家の高砂淳二さん
会場内にも高砂さんの写真が至るところに
会場に行ったらぜひ手に入れたいのが、公式図録。会場で展示されている内容に加え、会場では紹介しきれなかったコラムなども多数掲載されており、国立科学博物館と海洋研究開発機構が「海」をあらゆる観点から解説した、海好きには必携の一冊となっています。表紙の写真は、自然写真家・高砂淳二さんが沖縄・ケラマで撮影したもの。高砂さんの写真は表紙だけでなく図録内でもたくさん使われており、美しい海の景色を目にすることができます。会場内でも、入り口の巨大なパネルをはじめ、様々な場所で高砂さんの写真を見ることができますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
●公式図録/オールカラー200ページ、税込み2,600円
今回紹介した見どころ以外にもさまざまな展示があり、じっくり見ているとあっという間に時間が経ってしまいます。ぜひ皆さんも会場を訪れて、生命のみなもとである海について、知識を得る機会にしてみてはいかがでしょうか。
開催概要
特別展「海 ―生命のみなもと―」
Special Exhibition The OCEAN -The Origin of Life
会期:2023年7月15日(土)〜10月9日(月・祝)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)